過去と今、未来を結ぶことこと
故イサムノグチ-幻のデザイン
故イサムノグチの幻の彫刻作品、原爆死没者慰霊碑の建設は、彼の意志でした。これまでも何人かの建築家の働きがけがありましたが現実化することなく今に至ります。
2009年4月5日、バラク・オバマ米大統領は、チェコの首都プラハで演説し、「核兵器のない世界」の実現に向けて世界をけん引してゆくことを誓いました。「世界で唯一核兵器を使用したことのある核保有国として、米国は行動を起こす責任がある」と述べ、「この取り組み我々一国で成し遂げることはできないが、しかし、世界をけん引することはできる」と語りました。まさしく時代の変わるサインであったと思います。
世界唯一の被爆国である日本は?『私たち日本人は世界に向けていったい何をしなければいけないのでしょうか?』
私はいちクリエイターですが、この課題に対して背を向けることはできませんでした。そして故イサムノグチの過去からの声に耳を傾けたのです。
今ならできること、そして今でなければできないことがあるのです。そして私は実行し始めました。ここに目的があるからこそ、イサムの意志を継いで札幌モエレ沼公園を完成させた建築事務所アーキテクト5そして寺澤氏/鞍谷氏の協力が不可欠だったのです。
私たちはイサムノグチの慰霊碑に込められたメッセージの解釈を現在置かれている日本の立場と置き換えて考えようと思いました。それは多くの方々の苦しみや悲しみそしてさまざまな思いが込められた慰霊碑なのです、その意を継承しつつ積極的にこのような惨劇を二度と起こしてはいけないメッセージをイサムノグチの幻の碑に込められないかと考えたのです。
その意味においては広島にある原爆慰霊碑とこのイサムノグチの碑とでは最終目的は同じでも性格が異なるものです。この発想が東京での建設案に繋がるのです。そしてオリジナルよりも大きくすることで意味合いを深め、その環境には緑の公園、そして世界に核兵器廃絶のための中心的な役割を担う情報メディアセンターやミュージアムなどさまざまな関連機能を持たせることを考えています。世界と密接したリアルな情報交換を持つことでこの平和への思いや核廃絶の運動を深く広めることができるのならと考えたのです。そしてこの運動は日本だけに留まることなく、核廃絶を指示する国々においてもこの平和への思いは地球の輪となってあらゆる場所に広げられたならと考えているのです。
この意志は、核を落とし、落とされたという悲劇を越えてアメリカと日本が唯一主導になって進めなければいけない未来の地球へのビジョンであると考えます。故イサムノグチの過去の声を今を通し未来へ繋げていきたい。碑をつくることが目的ではありません、広島のそして長崎の惨劇を地球最後のことにしなければいけない、そしてこの大切な思いを次の世代に伝えていくだけでなく、積極的に意思表示していくことの重要性を感じています。